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綺麗な気持ち [impressions]

高校生のときバンドを組んでライブ活動をしていた。
キング・クリムゾンやジミ・ヘンドリックスなどの曲をプレイし
大半は即興演奏だったのだが
一部の音楽ファンからは評価されていた。
高校生バンドとしては高い音楽性と演奏技術を持っていたと思う。

だが、ある日メンバーの一人であるKが自宅で自殺した。
私はそれをテレビのニュースで確認した。
変わった自殺の仕方だったので新聞でも大きく取り上げられた。

Kはイジメにあっていたようだった。
それも高校の教師から。
教師といっても教員免許も持っていない人物。
ボクシング部の指導がそいつの本業だ。

Kは高校をやめたかったのだが、彼の親は許さなかった。
それが自殺の原因のひとつとされている。
そんな事は全く知らなかった。

Kが自殺する2日前。
いつものようにライブの後、メンバーと夜通しで酒を飲んでいた。
でもその日は初めて互いについて思っていることを語り合った。
そして理解し合った。
それが何より嬉しかった。
本当の意味で他人とわかり合える事が
こんなに嬉しい事だなんて思ってもいなかった。
私はKと握手しながら、こう言った。
「今日は人生で一番楽しい日かも知れない。
自分が死ぬのならこんな日がいい」
それは、ある映画の中のセリフだった。

結局、私はKの事を何も分かっていなかったのだ。
私は高校をやめて毎日泣いた。

バンドはそのまま活動を続けた。
その1年後
バンドの中で最も才能があるNがショック状態に陥り
5年間精神病院に入院した。
5年間もである。
もともとNは精神分裂気味だったのだが
人知れずエスカレートしていったようだった。
それが表面化し始めた時にNの部屋を訊ねたのだが
部屋の中のありとあらゆる物が
黒いビニールで丁寧に包まれてあった。
彼は神経質で几帳面だった。
そして恥ずかしそうに私に言った。
「盗聴器が仕掛けられてあって、カメラで盗撮している奴が居るんだ」
その意味は分からないが
Nは完全に自分の存在を否定してしまったのかも知れない。

その後、Nを診察した精神科医が言った。
「よくここまで放って置きましたね。
あと1週間遅れていたらショック死していたかも知れない」

私はその後
何度か手首を切ったりしてみたが
今もこうして生きている。

高校生の時、自殺したKの通夜の席で
「死ぬ気になれば何でも出来る」と誰かが言った。
確かにそうだ。
その勇気があるのなら、怖い事なんて何もない。
だが私がその言葉で思い浮かぶのは犯罪しかなかった。
だからそんな言葉に説得力はない。
Kの父親はこう言った。
「壁に行く手を阻まれたとき、3つのタイプの人間に分かれる」
・壁を乗り越える人間
・諦めて自殺する人間
・どうする事も出来ずに気が狂う人間

私の場合はどれにも当てはまらない。
壁と向かい合って生きている。
もう壁があることすら忘れてしまった。

話は変わるが
こういうことを言う奴が最近多い。
「自殺系って好きなんだよね」

誰がつくったのかは知らないが、変な風潮である。

Kの自殺は衝動的なものであると思われる。
自殺を意識したのはもっと以前からだったとしても
彼は常に希望を持っていた筈だ。
彼の自殺の引き金を引いたのは
「死ぬのならこんな日がいい」
と言った私の一言だったのかも知れない。
Kは焼酎を1本飲み干し、泥酔状態で遺書を殴り書きし
そして実行に移した。

Kのような衝動自殺ではなく、
すでに自殺する事しか考えていない人も多いだろう。
そんな人達に言いたい。

世の中に対する「絶望感」は
他人に対する「憎悪」に変化しやすいから気をつけて下さい。

せめて死ぬときくらい
綺麗な気持ちで死にましょう。
  
   
++++++++++++++++++++++++++++++++
「Kの事は忘れていない」という意味も含めて記しておく。


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ちぇる

世の中に対する絶望感は他人に対する憎悪に変化しやすい。
それは、身をもって本当だといえます。何かに対する絶望感はそれに対する諦めを通り越して、その存在がなければこんな想いをしなくて済むのにという憎悪に変わる。
輪廻転生は仏教での考え方だから、本当にあるかどうかはわからないが、乗り越えることの出来なかった壁は、かならず来世でも同じ壁が用意されていて、乗り越えることができるまで何世でもめぐってくるといわれました。
私はいくつ、現世で壁を迂回してしまったかしら。
by ちぇる (2006-04-07 10:01) 

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